高安診 活動結果報告書 “まとめ”

交通事故の特徴を知る


『高齢者の事故が増えてきている』、『事故類型としては追突事故が多い』といった交通事故の特徴について、警察庁が毎年発表を行っている交通事故統計によって知ることができます。この交通事故統計は、大量の情報から全体の事故傾向はもちろん地域などグループ別での事故傾向も読み取ることができます。

しかしながら、基本的には年ごとの推移データを比較対象にしているため、事故の起こった場所とその原因というような複数の条件に合う事故の情報を知ることはできず、それぞれの事故が持つ個別・直接要因の特定といった観点で利用することは困難です。

そこで、高安診では保険事故調査会社の持つ交通事故原因調査報告書を活用しました。事故原因調査報告書には死亡事故からミラー同士が擦ったというような軽微な事故まで全て同じ調査項目になっており、当事者の属性や事故状況の上面図、当事者の説明といった情報が記載されているため、より詳細な事故分析が可能になります。

 

あなたは知っていますか?高齢者と非高齢者の違い


🔲高齢者が事故を起こしやすい場所は?

高齢者はどのような場所で事故を起こしやすいのか、事故原因調査報告書のデータから車線数で非高齢者との比較を行いました。

 

 

 

 

 

 

 

 

上の円グラフを見ると、高齢者は非高齢者に比べて片側一車線以下の道路や路外の出入り・駐車場といった道路外での事故が多く、逆に片側二車線以上の道路では事故をあまり起こさないことがわかります。

 

特に片側三車線以上と道路外における高齢者/非高齢者の事故割合の違いは顕著で、これだけでも運転する上で注意すべき点が高齢者と非高齢者で違っているのがわかります。

 

 

🔲高齢者はなぜ事故を起こしてしまうのか

 

ではなぜ、高齢者は事故を起こしてしまうのでしょうか?

 

一般的には、視力低下や反応速度低下などの“身体能力の衰え”や、漫然運転の増加といった“認知機能の低下”が原因だといわれています。ただこれだけでは『どうすれば高齢者の事故を回避できるのか』という具体的な解決策につながりません。そこで、事故原因調査報告書から高齢者が事故に至った時の行動の共通点を見つけることにしました。

 

すると、事故発生後に高齢者が「ぶつかるまで相手に気付かなかった」と説明していた事例が多く見られました。そこで調べてみたところ、高齢者は約45%が「ぶつかるまで気付かず、回避もできなかった」と答えており、非高齢者の約30%に比べて高い割合であることがわかりました。

 

さらに詳しく見ると、「ぶつかるまで相手に気付かなかった」事故のうち、交差点内で起こったものが高齢者だと約44%(非高齢者は約30%)と半数を占め、そのうち相手が右または左から来たのは約92%(非高齢者は約54%)で、高齢者は右または左から来た相手に気付かず事故を起こすという傾向が見えてきました。

 

 

🔲“確認をしないから危ない”は誤り!?

 

右または左から来た車に気付かない原因はなにか、まず思い浮かべるのは確認不足でしょう。左右を碌に確認せず交差点に進入するという非高齢者にはほとんど見られない行動をする高齢者がいるのは事実ですが、調査では大半の高齢者が「一時停止を行った」、「左右を確認して進行していた」と説明しており、著しく確認を怠った様子は見受けられませんでした。そこで、それが言い逃れや思い込みに由来するものなのか、それとも本当に確認をしていて見つけられていないのかを調べるために、研究で実態調査を行いました。

 

 

研究をして確かめる


🔲本当に高齢者は確認を行っているか

 

高齢者の中でも特に危険だといわれている後期高齢者に、車内の様子も確認することができるドライブレコーダを装着した車を運転してもらい、信号のない一時停止交差点での左右確認方法について調査を行いました。

 

すると、31名のうち減速も行わずに交差点に進入しようとした人が2名いましたが、それ以外の29名は首振りによる目視確認かカーブミラーの活用、またはそれらを併用した確認を行っていました。

 

つまり、高齢者のほとんどがなんらかの確認をしていたことがわかりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

🔲高齢者の確認に問題はあるのか?

 

確認を行っているにもかかわらず、高齢者が相手を見つけられずに事故を起こしてしまう原因としては、確認が適切でなかったことが考えられます。そこで、高齢者が適切な確認ができていたか(適切な確認とは交差路の右または左から来た車・自転車を相手の進路上に入る前に停止できるタイミングで発見できたか)で評価を行いました。

 

その結果12名が適切な確認をできていることがわかりました。高齢運転者のうち適切な確認ができている人が4割弱いるというと多いように感じますが、逆に確認をしている人の5割以上が適切な確認になっておらず、いわば『形だけの確認』になってしまっているという実態が見えてきました。

 

 

どうすれば解決できるのだろうか


事故リスクを減らすためには運転者の“知識”だけではなく、それを運転“意識”につなげることが重要になってきます。今回の事例では「一時停止は履行しなくてはならない」、「交差点では左右を見なければならない」といった“知識”はあっても、「死角から歩行者や車が出て来るかも知れず、常に回避できるようにしておかなければならない」という“意識”を持っていなかったため、見えないところを見えないままやり過ごす『形だけの確認』になってしまったのです。

 

これを解決するには、なぜ一時停止で止まらなければいけないのか、なぜ左折するときに車を寄せなければいけないのか、といった免許を取ったときに“知識”として教えられた安全運転の『なぜ』を、いまいちど初心に立ち返って“意識”することで『形だけの運転』を脱却することが必要でしょう。

 

 

データから見えてきた高齢者事故の特徴とは


高齢者は確認を怠っている様子こそないものの、それが他車を確実に発見でき、発見した場合は回避できる確認になっておらず、形だけの確認になっていました。これは事故を起こしやすい車線数にも表れていて、車線数の多い単路のような極論すれば前方にのみ注意していればいい場所よりも、駐車場や路外出入りといった確認すべき箇所が刻々と変化していく場所の方が危険なのです。

 

理由としては認知機能の低下による確認動作の鈍化、確認時間の増加。そして、運転の慣れによる確認の形骸化といったものが考えられます。ところが形骸化した確認行動になっていても、車の動きとしては減速や停止を伴いますし、運転者を外から見ると何らかの確認を行っています。車の速度や加速度で形骸化有無を判断するのは難しいですし、ただ運転者の動きを見るだけでも不十分です。

 

形骸化した確認の有無を正確に把握するには、置かれた環境(交差点など)における車の位置及び速度に対して運転者の行動が適切かどうかを細かく見ていくしかありません。すなわち、高齢者の運転を評価するには数値データだけではなく、映像データを活用した分析を行う必要性があるといえるでしょう。